シニア犬の筋肉の衰えについて
ちーちゃんは、現在寝たきりになっています。
倒れてから麻痺が残り、体がうまく動かなくなりました。その時点で車椅子や筋肉トレーニングなどをしていたら、何か違ったのかなと思うこともあります。
ただ、倒れた当時のちーちゃんはとても衰弱していたので、正直なところ、毎日の介護で手いっぱいでした。今は容体が安定していて、薬を飲みながら、食事はシリンジであげています。
家の中ではほとんど寝たきりですが、カートで外に出ると楽しそうに笑ったり、外の様子を鼻で感じ取ったりしています。
ちーちゃんは外の空気や匂い、人の声などを、今もきちんと感じ取っているように思います。
そのため、近所をゆっくり回って、なるべく話しかけてもらいながら、今のちーちゃんにとっての幸せを探しています。
本来なら家の中で体勢を少しずつ変えたり、体の状態を見ながら筋力トレーニングをしたりするべきだったのかなと思います。
しかし、介護にはほかにも必要なことがたくさんあり、なかなかそこまで至りませんでした。
そこで今回は、シニア犬やハイシニア犬の筋力をなるべく落とさず、できる限り最後まで自分の力で歩くために、家庭で検討できるトレーニングや注意点についてまとめたいと思います。
倒れた直後や体調が不安定な時に、筋力トレーニングまで手が回らなかったとしても、飼い主さんの責任ではありません。命を守るための投薬、食事、水分、排泄、体位変換、通院などを続けること自体が、とても大きな介護です。
シニア犬の筋肉はなぜ衰えやすいのか
犬も年齢を重ねると、筋肉の量や筋力が少しずつ低下していきます。加齢や病気などによって筋肉量や筋力が減り、身体機能が低下する状態は「サルコペニア」と呼ばれることがあります。
さらに、痛み、麻痺、関節の病気、食欲の低下、長時間同じ姿勢で寝ていることなどが重なると、活動量が減り、筋肉の衰えが進みやすくなります。
足を使わない期間が続くと、筋肉が細くなるだけではなく、関節が硬くなったり、立ち上がりや姿勢の維持が難しくなったりすることがあります。
特にハイシニア犬の場合は、体調を崩したことをきっかけに、急激に歩けなくなることもあります。「少し前まで歩いていたのに」と感じるほど、筋力低下が早く進むこともあります。
筋力低下に気づくための変化
- 立ち上がるまでに時間がかかる
- 後ろ足が震える、開く、交差する
- 歩く時に爪や足先を引きずる
- 段差や階段を嫌がる
- 散歩の途中で止まることが増える
- 以前より寝ている時間が長くなる
- 背骨、肩、腰、骨盤などの骨が目立ってくる
- お座りや伏せの姿勢が崩れる
- 滑る床で立てなくなる
- 抱き上げた時に体が細くなったように感じる
ただし、筋力低下に見える症状の中には、関節痛、神経疾患、心臓病、貧血、内分泌疾患、電解質の異常などが隠れていることもあります。
急に立てなくなった場合や、左右差がある場合、倒れる、呼吸が苦しそう、強く痛がる、意識の変化がある場合は、トレーニングを始める前に動物病院へ相談することが大切です。
シニア犬のトレーニングで大切なこと
シニア犬の運動は、たくさん動かせばよいというものではありません。
その子の病気、痛み、麻痺の程度、心臓や腎臓の状態、疲れやすさなどに合わせて、「少しずつ」「短時間で」「無理をさせない」ことが基本になります。
昨日できた運動が、今日も同じようにできるとは限りません。毎日の表情、呼吸、食欲、睡眠、足の動きなどを確認しながら、その日の状態に合わせて調整します。
- 息が荒くなり、なかなか戻らない
- 体が震える
- 足を強く突っ張る
- 触られることを嫌がる
- 鳴く、うなる、噛もうとする
- 舌や歯茎の色が白い、青紫色になる
- ぐったりする
- 運動後に痛みや歩き方が悪化する
- 発作、失神、意識の変化が見られる
寝たままで行う関節の曲げ伸ばし
自分で足を動かすことが難しい犬には、飼い主が足を支えて関節をゆっくり動かす「他動的関節可動域運動」という方法があります。
これは、筋肉を大きく鍛えるための運動というよりも、関節が硬くなることを防ぎ、柔軟性や血流を保つためのケアです。
基本的な方法
- 滑らず、体が安定する場所に横向きで寝かせます。
- 足先だけを引っ張らず、関節の上下を手で支えます。
- 肩と肘、股関節と膝などを、自然な方向へゆっくり曲げ伸ばしします。
- 外側や内側にねじらないようにします。
- 嫌がらない範囲で数回行い、反対側も同じように行います。
関節を限界まで伸ばしたり、強く押したりする必要はありません。麻痺がある場合でも、痛みが残っていることがあります。
骨折、脱臼、手術後、急性の炎症、原因が分からない麻痺などがある場合は、自己判断で始めず、獣医師や動物のリハビリ専門家に動かし方を確認してください。
やさしく足を動かす「自転車こぎ運動」
横向きに寝た状態で足を支え、自転車をこぐように小さな円を描いて動かす方法もあります。
足先だけを持って回すのではなく、膝や足首などを支えながら、実際に歩く時の足の動きを意識して、ゆっくりと行います。
この運動も無理に筋肉を鍛えるものではなく、関節の動きを保ち、足を動かす感覚を刺激することが主な目的です。
体を支えながら行う立位練習
獣医師から立たせてもよいと言われている犬の場合は、歩行補助ハーネスやタオルなどでお腹や腰を支えながら、短時間だけ立つ練習を行うことがあります。
足の裏が床にきちんと着くように整え、前足と後ろ足に少しずつ体重がかかるように支えます。
最初から歩かせる必要はありません。数秒間、正しい姿勢で立つことだけでも、寝た状態とは違う刺激になります。
ただし、首やお腹だけで体を吊り上げたり、足が床から浮いた状態で長時間支えたりすると、体に負担がかかります。犬の体格や麻痺の場所に合った補助具を選ぶことが大切です。
体重移動のトレーニング
自分である程度立てる犬の場合は、体を支えながら、体重を左右や前後へ少しだけ移動させる練習があります。
肩や腰に手を添え、体をほんの少し横へ動かします。犬が倒れないように、自分の足で姿勢を戻そうとする範囲で行います。
体重移動は、体幹や姿勢を支える筋肉、足の位置を感じる感覚などを刺激する運動です。
大きく揺らしたり、足を滑らせたりしないように注意し、必ず滑り止めのある床で行います。
バランスボールを使ったトレーニング
犬のリハビリでは、ピーナッツ型のバランスボールやバランスディスクなどが使われることがあります。
不安定な場所で姿勢を保とうとすることで、体幹や足の筋肉、バランス感覚を刺激できます。
ただし、バランスボールは、寝たきりの犬や自力で体重を支えられない犬に、いきなり使用するものではありません。
転落や関節への負担を防ぐため、最初は床に置いた低いクッションや、空気を少なめにした器具などから検討し、必ず飼い主が体を支えます。
麻痺、発作、失神、関節痛、骨折、心臓病などがある犬は、使用できない場合もあります。始める前に獣医師やリハビリ専門家へ相談してください。
歩けるシニア犬に向いている運動
まだ自力で歩ける場合は、長時間の散歩を一度に行うよりも、短い散歩を何回かに分ける方法があります。
- 平らで滑りにくい道をゆっくり歩く
- 疲れる前に休ませる
- 暑い時間帯や寒すぎる時間帯を避ける
- 急な坂道、階段、ジャンプを避ける
- 歩き方が崩れる前に切り上げる
- 歩行補助ハーネスやカートを併用する
カートでのお散歩も、体の運動だけが目的ではありません。外の空気、匂い、音、人との触れ合いは、シニア犬にとって大切な刺激になります。
歩けなくなったからといって、外へ出る意味がなくなるわけではありません。
ちいちゃんがカートの中で笑ったり、鼻を動かして外の匂いを感じたりする姿を見ると、外へ出ることそのものが、ちいちゃんの楽しみになっているのだと思います。
筋力を守るための生活環境
滑りにくい床にする
フローリングなどの滑る床では、足に力を入れにくくなります。滑り止めマットやカーペットを敷き、立ち上がる場所や水飲み場までの動線を整えます。
寝る姿勢を定期的に変える
自分で寝返りができない場合は、体調を見ながら体の向きを変えます。同じ場所への圧迫を減らし、床ずれや関節のこわばりを防ぐためにも大切です。
足の裏を床に着ける
抱き上げた時や立たせた時に、足の甲が床に着いたままになっていないか確認します。肉球が床に着く位置へやさしく戻します。
爪と足裏の毛を整える
爪が長すぎたり、肉球の間の毛が伸びていたりすると、床を踏ん張りにくくなります。無理のない範囲で定期的に確認します。
休める場所を作る
筋力を維持することは大切ですが、ハイシニア犬には十分な休息も必要です。運動をさせ続けるのではなく、体を動かす時間と、ゆっくり休む時間の両方を大切にします。
食事と筋肉について
筋肉を維持するためには、運動だけではなく、必要なエネルギーや栄養を摂ることも重要です。
しかし、腎臓病、肝臓病、心臓病などがある犬では、単純に肉やたんぱく質を増やせばよいとは限りません。
特にちいちゃんのように持病があり、シリンジで食事をあげている場合は、食事量、カロリー、水分量、食事の濃さなどを、かかりつけの獣医師と相談する必要があります。
食べられる量が減っている時は、「筋肉をつけること」だけではなく、まず必要な栄養と水分を安全に摂ることを優先します。
車椅子を使うタイミングについて
犬用車椅子は、足腰が弱った犬の体を支え、立つことや歩くことを補助するための道具です。
自分の足を完全に使えなくなってからだけではなく、転びやすくなった時や、後ろ足の力が弱ってきた段階で検討されることもあります。
一方で、体力が大きく低下している時や、呼吸が苦しい時、痛みが強い時などは、車椅子に乗ること自体が負担になる場合があります。
「あの時、車椅子を使っていたら」と考えてしまうこともありますが、倒れた直後のちいちゃんは、とても衰弱していました。
その時に必要だったのは、無理に立たせることではなく、命を守り、体調を安定させることだったのだと思います。
車椅子は、その子の体力、麻痺の状態、前足の力、体格などを確認しながら、使う時期や時間を決めることが大切です。
介護の中で、すべてを完璧に行うことは難しい
シニア犬の介護では、薬、食事、水分、排泄、体位変換、通院、夜間の見守りなど、毎日やらなければならないことがたくさんあります。
その中で、リハビリや筋力トレーニングまで完璧に行うことは、簡単ではありません。
私自身も、「もっと早く何かできたのではないか」と考えることがあります。
それでも、倒れて衰弱していたちいちゃんを守り、薬を飲ませ、シリンジで食事をあげ、カートで外へ連れ出し、毎日話しかけながら過ごしてきました。
それもすべて、ちいちゃんの命と幸せを支えるために必要なことだったと思っています。
筋力トレーニングができなかったことだけを見るのではなく、その時にできることを一つずつ続けてきたことも、大切にしたいと思います。
最後に
シニア犬やハイシニア犬の筋肉は、少し動かない期間が続いただけでも、急速に衰えてしまうことがあります。
まだ自分で歩ける段階から、滑りにくい環境を作り、短い散歩や立つ練習などを続けることは、筋力を保つ助けになる可能性があります。
すでに歩けなくなっている場合でも、関節をやさしく動かすこと、体勢を変えること、足の裏を床に着けること、カートで外へ出ることなど、その子の状態に合わせてできることがあります。
ただし、麻痺や倒れた経験のある犬、持病のある犬は、同じトレーニングがすべての子に合うわけではありません。
「歩かせなければ」「筋肉をつけなければ」と焦るのではなく、痛みや疲れを見ながら、その子にとって無理のない方法を探すことが大切です。
今のちいちゃんにとっては、カートで外の匂いを感じたり、近所の人に声をかけてもらったり、私がそばで話しかけたりすることも、大切な時間です。
これからも、筋肉や体の状態だけではなく、ちいちゃんが何を心地よいと感じ、何を楽しんでいるのかを見ながら、ちいちゃんにとっての幸せを探していきたいと思います。
参考にした情報
- AAHA「2023 Senior Care Guidelines for Dogs and Cats」
- AAHA「Pain Management」
- WSAVA「Global Nutrition Guidelines/Muscle Condition Score」
- VCA Animal Hospitals「Rehabilitation Modalities」
- VCA Animal Hospitals「Exercises to Improve Proprioception」
- American College of Veterinary Surgeons「Osteoarthritis in Dogs」
- 豊見城動物高度医療センター「運動療法」
※この記事は、シニア犬の筋力維持や介護について一般的な情報をまとめたものです。麻痺、失神、発作、腎臓病、心臓病、関節疾患などがある場合は、トレーニングを始める前に、必ずかかりつけの獣医師へご相談ください。
シニア犬の筋力低下や歩行を支える便利グッズ
シニア犬の筋力を守るためには、トレーニングだけではなく、立ち上がりや歩行を助けたり、足が滑らない環境を作ったりすることも大切です。
ここでは、シニア犬やハイシニア犬の介護、歩行補助、筋力トレーニングに役立ちそうな商品を3つ紹介します。
麻痺、関節の痛み、発作、失神、心臓病などがある場合は、商品を使用する前に、かかりつけの獣医師へ相談してください。特にバランスボールは、寝たきりの犬や自力で立てない犬に、自己判断で使用しないようにしてください。
① 後ろ足を支える歩行補助ハーネス
シニア犬は、後ろ足の筋力が低下すると、立ち上がる時や排泄する時、少し歩く時にも体を支えることが難しくなる場合があります。
歩行補助ハーネスは、弱くなった後ろ足や腰まわりを飼い主さんが支えながら、立つことや歩くことを補助するための道具です。
無理に引っ張るのではなく、わんちゃん自身の足が床に着くように調整しながら、少しだけ体重を支えてあげる使い方が向いています。
排泄時の姿勢を支えたい時や、寝床から立ち上がる時、室内を数歩移動する時などにも役立つ可能性があります。
※サイズが合わないと、ずれたり体に負担がかかったりすることがあります。胴回りや腰回りを測り、商品のサイズ表を確認して選んでください。
② 足元の滑りを防ぐシニア犬用シート
シニア犬の筋力低下を考える時に、まず見直したいのが床の滑りです。
フローリングなどの滑りやすい床では、足に力を入れようとしても踏ん張れず、立ち上がりや歩行がさらに難しくなってしまうことがあります。
滑り止めシートを敷くことで、足の裏が床を捉えやすくなり、立位練習や短い歩行の補助になる可能性があります。
寝床の周り、立ち上がる場所、水飲み場までの動線、排泄する場所など、よく使う場所だけに敷く方法もあります。
フリーカットできるタイプは、部屋全体に敷くのではなく、必要な場所の形に合わせて使いやすいのも便利なところです。
※シート自体がめくれたり動いたりすると、かえって転倒につながることがあります。設置後はずれや段差がないか確認してください。
③ 体幹トレーニングに使える犬用バランスボール
まだ自分で立つ力があり、獣医師から運動をしてもよいと言われている犬には、犬用のバランスボールを使ったトレーニングもあります。
ピーナッツ型のバランスボールは、一般的な丸いボールよりも転がりにくく、体を支えながら姿勢を保つ練習に使われることがあります。
不安定な場所で姿勢を保とうとすることで、体幹や足の筋肉、バランス感覚に刺激を与えます。
ただし、いきなりボールの上に乗せたり、長時間トレーニングをしたりするのは危険です。最初は空気を少なめにし、必ず飼い主さんが両手で体を支えながら、短時間から始める必要があります。
- 自力で立つことができない
- 寝たきりになっている
- 強い麻痺や関節痛がある
- 発作や失神を起こすことがある
- 呼吸が苦しそう、体力が大きく低下している
- 獣医師から安静を指示されている
便利グッズは、その子の状態に合わせて選ぶ
シニア犬の介護用品やトレーニング用品は、使えば必ず歩けるようになるというものではありません。
歩行補助ハーネスが必要な子もいれば、まずは滑りにくい床を作ることが大切な子もいます。まだ自分で立てる子であれば、状態を見ながらバランス運動を検討できる場合もあります。
ちいちゃんのように、すでに寝たきりで麻痺が残っている場合は、無理に筋力トレーニングをするよりも、体勢を変えたり、関節をやさしく動かしたり、カートで外へ出たりすることを優先する方がよい場合もあります。
その子の体調や年齢だけではなく、表情や呼吸、疲れ方なども見ながら、今できることを少しずつ探していくことが大切だと思います。
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コメント
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